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函館家庭裁判所 昭和54年(少)511号 決定

少年 T・S(昭三九・一一・一八生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

一  昭和五三年一二月二八日ころ、松前郡○○町字○○×××番地の×先路上に駐車中のK所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を窃取し

二  A及びBと共謀のうえ、同五四年一月三日ころ

(1)  同町字○○××番地先路上に駐車中のL所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート二枚(時価約二、〇〇〇円相当)を

(2)  同町字○△××番地先空地内に駐車中のM所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(3)  同町字○△××番地先空地内に駐車中のN所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約五〇〇円相当)を

(4)  同町字△○××番地先路上に駐車中のO所有の普通用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(5)  同町字△○××番地先空地内に駐車中のP子所有の普通用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、五〇〇円相当)を

(6)  同町字△△××番地先駐車場内に駐車中のQ所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(7)  同町字△△××番地先駐車場内に駐車中のR所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(8)  同町字△△××番地先路上に駐車中のS所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート四枚(時価約二、五〇〇円相当)を

それぞれ窃取し

三  A及びBと共謀のうえ、同月二八日ころ

(1)  同町字△○××番地先空地内に駐車中のT所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(2)  同町字△○××番地先空地内に駐車中のU所有の普通乗用自動車から同車のネーププレート二校(時価約二、〇〇〇円相当)を

(3)  同町字△○××番地先路上に駐車中のV所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート一枚(時価約一、〇〇〇円相当)を

(4)  同町字○○○先路上に駐車中のW所有の普通乗用自動車から同車のネームプレート二枚(時価二、〇〇〇円相当)を

それぞれ窃取し

四  C、B、D及びEと共謀のうえ、同年四月三日午後一一時五〇分ころ、同郡○△町字○○×番地において、X子所有の自動販売機内から同人所有の缶ジユース六本(時場六〇〇円相当)を窃取し

五  同年五月一六日午後八時ころ、同郡○○町字○○×××番地の×○○自動車整備工場前駐車場内において、同所に駐用中のY所有の普通貨物自動車(車体番号○○×××-××××××)一台(時価約五、〇〇〇円相当)を窃取し

六  公安委員会の運転免許を受けないで、同日午後八時ころ同所先路上において、上記普通貨物自動車を運転し

七  Fと共謀のうえ、同月二五日午後三時三〇分ころ、同町字○○△××番地の××Z方住居に、Jに対してわいせつの行為をする目的で、その窓から故なく侵入し

八  Fと共謀のうえ、同日午後三時三〇分ころ、同所Z方住居内において、同所付近で遊んでいたJ(昭和四七年一月二七日生)に対して同女が一三歳未満であることを知りながらわいせつの行為をしようと企て、同女に対し「スカート、パンツを脱げ、脱がないとIの家に入つたことを先生に言う」等と脅迫してスカート、パンツを脱がせ、更に同女の手足を押えつける等の暴行を加えたうえ、タオルで同女の陰部をこする等してこれを弄び、もつて一三歳未満の婦女に対し強いてわいせつの行為をしたものである。

(法令の適用)

一及び五の各事実につき 刑法二三五条

二ないし四の各事実につき 同法六〇条、二三五条

六の事実につき 道路交通法六四条、一一八条一項一号

七の事実につき 刑法六〇条、一三〇条

八の事実につき 同法六〇条、一七六条

(処遇の理由)

一  少年は、中学校入学後昭和五二年一〇月ころから窃盗、暴行、恐喝等の触法行為を繰り返すようになり、四回の児童相談所通告がなされ、その都度児童福祉司、中学校の先生等から注意、指導されてきたにもかかわらず、本件各非行を敢行したものであり、少年の非行傾向は多種多方向にわたり、窃盗、無免許運転等の非行は既に習癖化している。そして、怠学も多く、学校側の指導に対して反抗的態度もみられるようになつている。

二  少年は、知能はほぼ普通域にあるが、学力はかなり低く、性格はわがまま、甘えの気持ちが強く、自己中心的で、幼児的な感情から抜け出せず、社会性が身についておらず、依存傾向が強い。

三  少年の両親は、昭和五三年五月協議離婚したものの内縁関係は続いており、父は、出稼ぎの土工夫をしており、家庭における権威、統制力が欠けており、少年の非行についてもほとんど知らされておらず、少年の身柄引受けを希望しているが、少年鑑別所に少年の面接に一度も行つていない状態である。母は、家庭において実権を握り、少年をしかつたりするが、現在病気で入院中であり、実兄及び異父兄は、いずれも両親の下から独立して生活している。

四  少年は、上記のような家庭環境の下で生育し、家庭における躾がほとんどなされずに放置されてきたもので、このことが少年の性格面に大きな影響を与えてきたものと考えられる。そして、上記のような少年の性格及び家庭環境が本件及び従前の非行発生要因に大いにかかわつているものと考えられる。

五  上記のような少年の非行態様並びに少年の性格及び家庭環境等にかんがみれば、少年の再非行の可能性は極めて大きいところ、家庭の監護能力が皆無に等しいこと、学校側の指導も限界に達していること等から在宅補導による少年の問題点の矯正は困難であると思料されるので、この際少年を相当期間矯正施設に収容して厳正な生活環境の下で全般的な教育訓練を施し、少年の情緒的、社会的未成熟さを改善させることが、少年の健全な育成を期するために必要であると考える。

六  よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項を適用して、主文のとおり決定する。

なお、検察官作成の昭和五四年五月二四日付送致書記載の審判に付すべき事由のうち外二名と共謀のうえH所有の普通乗用自動車のネームプレート四枚を窃取したとの事実については、少年は調査及び審判において否認しており、警察での取調段階での少年らの自白の信憑性には疑いがあるので、結局合理的な疑をさしはさまない程度に証明があつたとはいえず、また、検察官作成の同年六月一八日付送致書記載の審判に付すべき事由のうち自動車損害賠償保障法違反及び道路運送車両法違反の各事実については、自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていないこと及び自動車登録フアイルに登録を受けていないこと並びに少年の右各事実の認識(故意)について合理的な疑いをさしはさまない程度に証明があつたとはいえないから、右各送致事実については非行なしとして少年を保護処分に付さない。

(裁判官 杉山正己)

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